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2026.01【特集記事】

進化する日本技術士会−DEI推進宣言によせて−

第1章 多様・多彩な技術者が活躍する社会を目指して
    −日本技術士会のDEI推進の歩みとこれから


飯島 玲子    
技術士(建設部門総合技術監理部門)  
 

1−1.はじめに

技術者の仕事は、社会の課題を解決し、持続可能な未来をつくることです。そのためには、技術だけでなく、人や社会への深い理解が必要です。

日本技術士会では、2025年4月に「DEI推進宣言」を公表し、多様・多彩な技術者・技術をつなぐプラットフォームとして、誰もがその人らしく生きられる社会の実現を目指し、取り組みを開始しました。

DEIとは、Diversity(多様性)・Equity(公平性)・Inclusion(包摂性)の頭文字です。多様性には、性別や年齢、国籍などの属性だけでなく、考え方や経験の違い、つまり「認知の多様性」も含まれます。DEIを理解し、活かすことは、人権を尊重する技術者倫理の実践であり、より良い技術の開発・活用や働き方改革、ひいては「その人らしく生きる」社会の実現にもつながります。

本稿では、DEIの考え方と技術との関わり及び日本技術士会の取り組みを紹介します。また、技術者への期待も記します。

1−2.技術者にとってのDEIとは

1)DEIの考え方と技術者との関係

D&Iは、多様な人が力を発揮するだけではなく、個性や特性を活かし、組織全体で新たな価値を創出するという考え方です。建設コンサルタント会社の大規模プロジェクトでは、道路、河川、鉄道など異なる専門分野が協力します。プロジェクト管理の調整は容易ではありませんが、分野をまたがる連携によって競争力は大きく高まります。

近年は「公平性(Equity)」が加わり、DEIが広く提唱されるようになりました。公平性とは、すべての人が力を発揮できるよう、その特性に応じた支援や環境を整えることです。支援や環境を平等に提供するのではなく、結果の平等を達成しようとするものです。 例えば、左利き用のハサミ、出身国に応じた多言語活用、男性中心の職場における女性の積極育成などが挙げられます。図1の下は、体型や特性に合わせた自転車を用意することを公平性として示しています。大規模プロジェクトで例えると、メンバー体制が十分ではない部門への側方支援、体制に応じた工程管理等が該当します。


図1.平等(Equality)と公平(Equity)の違い
出典:RWJF、https://www.rwjf.org/en/insights/blog/2022/11/we-used-your-insights-to-update-our-graphic-on-equity.html

2)認知の多様性の重要性

組織の競争力を高めるためには、性別、年齢などの属性だけでなく、価値観、思考プロセス、経験といった認知の多様性(コグニティブ・ダイバーシティ)も重要です。例えば、1つのプロジェクトに論理的に考える人、大胆な発想をする人、調和を重視する人がいると、それぞれの強みを活かし、より質の高い成果を生み出し得ます。なお一般に、属性により人生のさまざまな経験や価値観は異なってくるため、属性の多様化は認知の多様化に役立つと考えます。

1−3.日本技術士会の取り組み

1)DEI推進宣言の背景

日本技術士会では、技術者や技術士を目指す女性向けの懇話会(技術サロン)や若手技術士支援のセミナーなど、属性別の取り組みを続けてきました。そして、本年4月、社会課題の解決やウェルビーイング向上に貢献するため、DEI推進を宣言しました(図2)。


図2.日本技術士会DEI推進宣言(概要図)

背景には、技術士に占める女性割合が約3%にとどまっているという現状があります。社会全体にある「女性は理系科目が苦手」といった無意識のバイアスや、「男女平等はすでに達成された」という認識不足が改善を阻んでいます。また、若手や障害のある方、外国出身者の活躍もまだ途上です。

2)DEIと技術士倫理の接点

2023年改訂の技術士倫理綱領には「多様性の尊重」が明示されています。DEI推進宣言は、この理念を具体化する役割も担っています。

1−4.DEIが技術に活きる場面

1)ジェンダード・イノベーション

世の中には、成人男性基準に偏った機器やサービスが多くあります。例えば、自動車の安全ベルトは長年、成人男性の体格を基準に設計されてきました。その結果、女性が事故に遭った際の死傷率が男性よりも高いという課題が指摘されています。現在、女性のダミー人形を活用し、性差を考慮した開発を進めている企業もあります*1

2)知的財産の経済価値向上

知的財産の分析では、「男女がいるチーム」は「男性のみのチーム」より、「日本人と外国人のいるチーム」は「日本人のみのチーム」より特許の経済価値が高く、企業貢献をしているという調査結果*2があります。多様性がイノベーション創出につながっていることがわかります。

3)リスク管理・ガバナンス強化

同質性の高い組織では「同調圧力」により集団思慮が生じ、不正リスクが高まります。技術の現場での不正は、人の生命に直結する問題となり得ます。DEIにより多様性を確保し、誰もが発言しやすい包摂性のある組織とすることはリスク管理やガバナンス強化につながります。

1−5.これからの取り組みと技術者への期待

日本技術士会では宣言の実践に向けた議論を進めています。まずは会員の意識や理解を深め、実践につなげていきます。先進的な取り組みも参考にしながら、我が国の科学技術分野におけるDEI推進への貢献を目指します。

大切なのは、DEIを「自分ごと」として語れる人を増やすこと。そして、危機感と楽しさを持ってアクションすることです。

技術者の皆さんには、無意識のバイアスに気づき、倫理と多様性を意識した技術者として成長されることを期待します。身近な場面で「多様性」を意識することから始めてはいかがでしょうか。

●参考資料

*1) Forbes JAPAN、衝突実験に女性形のダミーを採用。ボルボが「当たり前」を変えた(2020年9月17日付)
*2)餅友佳奈(日本政策投資銀行)、「女性の活躍は企業パフォーマンスを向上させる〜特許からみたダイバーシティの経済価値への貢献度〜」

●プロフィール

技術職として約20年間、都市計画等のコンサルティング業務に従事。その後、本社部門にてダイバーシティ経営、1on1ミーティング等の立ち上げを担う。学協会でもDEIを推進するほか、多様な業種の女性活躍やDEIを支援している。
パシフィックコンサルタンツ株式会社 経営企画部 経営企画室 プロジェクトリーダー
日本技術士会DEI委員会 委員長、土木学会DEI委員会 顧問
技術士(建設部門/総合技術監理部門)、国家資格キャリアコンサルタント



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