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1−1.技術士制度のあらまし
技術士は、およそ半世紀前に、米国のコンサルティングエンジニアおよびプロフェッショナルエンジニアの制度を倣って、コンサルティングエンジニアの制度を定着させるために生まれたものです。
当初民間資格としてスタートし、技術士法の制定をめざした積極的な活動が行われ、紆余曲折を経て1957年、国会の審議を通過し、科学技術庁を所管とする技術士制度が発足したわけです。
1958年7月、第1回目の技術士試験が行われ、同年11月、技術士法に基づく(社)日本技術士会が発足しました。
1983年には技術士補制度が発足し、技術士となるのに必要な技能を修習するため、技術士補として技術士業務を補助することになりました。
1998年に、APECエンジニアの枠組み作りがスタートし、2000年にAPECエンジニア登録が開始されました。この動きに伴い、2000年4月、技術士法が改正され、技術士第二次試験は技術士第一次試験の合格者(及びそれと同等と認められる者)のみが受験できるようになりました。技術士第一次試験は技術士第二次試験のパスポートというわけです。そして、2007年、2013年と試験内容の改正が行われ、さらに2019年度から、また新たに技術士第二次試験の内容が変わりました。
技術士第一次試験は、専門科目を5グループに共通化(大くくり化)する案が進められていますが、実施時期は未定です。
1−2.技術士第一次試験の概要
「令和3年度技術士第一次試験実施大綱」(令和2年11月26日)では、以下のように定められました。
1)技術士第一次試験の実施について
- 技術士第一次試験は、機械部門から原子力・放射線部門まで20の技術部門ごとに実施し、技術士となるのに必要な科学技術全般にわたる基礎的学識及び技術士法第四章の規定の遵守に関する適性並びに技術士補となるのに必要な技術部門についての専門的学識を有するか否かを判定し得るよう実施する。
- 試験は、基礎科目、適性科目及び専門科目の3科目について行う。
出題に当たって、基礎科目については科学技術全般にわたる基礎知識(設計・計画に関するもの、情報・論理に関するもの、解析に関するもの、材料・化学・バイオに関するもの、環境・エネルギー・技術に関するもの)について、適性科目については技術士法第四章(技術士等の義務)の規定の遵守に関する適性について、専門科目については技術士補として必要な当該技術部門に係る基礎知識及び専門知識について問うよう配慮する。
基礎科目及び専門科目の試験の程度は、4年制大学の自然科学系学部の専門教育課程修了程度とする。
- 基礎科目、適性科目及び専門科目を通して、問題作成、採点、合否判定等に関する基本的な方針や考え方を統一するよう配慮する。
なお、専門科目の問題作成に当たっては、教育課程におけるカリキュラムの推移に配慮するものとする。
2)技術士第一次試験の試験方法
- 試験の方法
- 試験は筆記により行い、全科目択一式とする。
- 試験の問題の種類及び解答時間は、次のとおりとする。
((2)の配点、合否基準含む)
1−3.2022年度技術士第一次試験の攻略ポイント
技術士第一次試験は、年齢・学歴・国籍・業務経歴等による受験資格の制限はありません。第二次試験を受験するには、指定された教育課程の修了者以外は、技術士第一次試験に合格していることが必要となります。
第一次試験は、基礎科目、適性科目、専門科目の3科目がそれぞれ50%以上の成績を取らないと合格できません。各科目はすべて5肢択一式問題であり、記述式試験である第二次試験に比べると難易度は低く合格率は例年40〜50%前後ですが、出題範囲が大変広く、事前の十分な学習を行わないと試験合格は困難です。
第二次試験の受験に際しては、技術士第一次試験で合格した技術部門に限らず、全ての技術部門の中から選択できますので、第一次試験と第二次試験が同じ部門でなくてもかまいません。
ですので、過去の専門科目の試験問題を見て、最も点数が取れそうな部門を選んで受験することが受験対策上、大変重要です。
さらに、各科目の出題内容・出題傾向をよく把握したうえで、各科目についてご自身が現在どれだけの知識を持っているか、どれくらい正解を得られるかの実力チェックを行ってから、必要な受験対策の方法をご検討するのがよいでしょう。
特に第一次試験は、過年度問題が繰り返し出題される傾向がありますので、過去問題は十分学習しておく必要があります。
専門科目の大くくり化が実施される前の、従来試験が行われている今のうちに、第一次試験にチャレンジし合格を目指してください。
1−4.技術士第二次試験の概要
「令和3年度技術士第二次試験実施大綱」(令和2年11月26日)では、以下のように定められました。
1)技術士第二次試験の実施について
- 技術士第二次試験は、機械部門から総合技術監理部門まで21の技術部門ごとに実施し、当該技術部門の技術士となるのに必要な専門的学識及び高等の専門的応用能力を有するか否かを判定し得るよう実施する。
- 試験は、必須科目及び選択科目の2科目について行う。
出題に当たって、総合技術監理部門を除く技術部門における必須科目については当該技術部門の技術士として必要な当該「技術部門」全般にわたる専門知識、応用能力、問題解決能力及び課題遂行能力に関するものについて、選択科目については当該「選択科目」についての専門知識及び応用能力に関するもの、並びに問題解決能力及び課題遂行能力に関するものについて問うよう配慮する。
総合技術監理部門における必須科目については、「総合技術監理部門」に関する課題解決能力及び応用能力を問うこととし、選択科目については、総合技術監理部門を除く技術部門の必須科目及び選択科目と同様の問題の種類を問うこととする。
- 試験の程度は、科学技術に関する専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計等の業務に従事した期間が4年等であることを踏まえたものとする。
筆記試験(必須科目、選択科目)及び口頭試験を通して、問題作成、採点、合否判定等に関する基本的な方針や考え方を統一するよう配慮する。
※鍵括弧付きの「選択科目」は、21の技術部門におかれる69の選択科目を指す。
2)技術士第二次試験の試験方法
- 筆記試験
- 総合技術監理部門を除く技術部門の必須科目及び選択科目は、いずれも記述式により行う。
総合技術監理部門の必須科目は択一式及び記述式により、選択科目は記述式により行う。
- 筆記試験の問題の種類及び解答時間は、次のとおりとする。
((3)の配点、合否基準含む)
(総合技術監理部門を除く技術部門)

(総合技術監理部門)
※既に総合技術監理部門以外のいずれかの技術部門について技術士となる資格を有する者は、当該技術部門に対応する選択科目が免除される。(技術士法施行規則第11条の2)
- 口頭試験
- 口頭試験は、筆記試験の合格者に対してのみ行う。
- 口頭試験は、技術士としての適格性を判定することに主眼をおき、筆記試験における記述式問題の答案及び業務経歴を踏まえ実施するものとし、筆記試験の繰り返しにならないよう留意する。
- 試問事項及び試問時間は、次のとおりとする。なお、試問時間を10分程度延長することを可能とするなど受験者の能力を十分確認できるよう留意する。
(以下、(3)の配点、合否基準含む)
(総合技術監理部門を除く技術部門)

(総合技術監理部門)
※選択科目に関する口頭試験は、総合技術監理部門以外の技術部門の口頭試験にて別途行うこととする。また、選択科目が免除される者は必須科目のみの試問とする。
1−5.過去3年間の第二次試験結果と2022年度技術士第二次試験の攻略ポイント
過去3年間の合格率を下表に示します。第二次試験は第一次試験に比べはるかに難関であり、全体の合格率が9〜11%と、大変厳しい合格率であることを認識ください。特に平成30年度は10%を切り、9.1%という技術士試験が始まって以来の最低の合格率でした。試験改正後の令和元年・2年度も、平成30年度に次いで厳しい合格率でした。
改正3年目の2021年度試験結果は、本誌編集時点(2021年12月)ではまだわかりませんが、令和元〜2年度とほぼ同様の合格率と予想されます。
それでも、改正後の3回の試験実施で試験の傾向がはっきりしましたので、2022年度の技術士試験は、今までに比べ、より対応しやすくなったといえましょう。
以下に、2022年度の試験合格に向けて、留意すべきポイントをお伝えします。
【I:必須科目について】
受験部門全体の共通問題である必須科目の記述式問題は、60%未満であれば、選択科目の各答案がよい成績であっても不合格になるので、最も注力して対策すべき必要のある科目である。
改正以降の試験では、総合技術監理部門を除く20部門すべてにおいて、少しずつ変化はあるものの毎年、ほぼ同様の形式で出題されている。2022年度も同様の形式で出題されると考えて、2021年度の出題形式に沿って、出題が予想されるテーマに基づき答案を準備しておく。
問題の中で最もウエイトが大きいのは設問(2)の「課題に対する解決策」の記述と思われるが、問題文の設問(3)(「リスクと対策」もしくは「波及効果と懸念事項への対応策」)、設問(4)(「技術者としての倫理、社会の持続可能性の観点」)については、多くの受験者がおざなりな解答でごまかしている例が多い。それだけ、難しい問いかけの設問であるといえるが、逆にこの(3)、(4)を一般論に陥ることなくしっかり論述することで、他の受験者の答案との差別化が可能となる。
(1)の「課題抽出」から(2)、(3)、(4)までの「問題解決のステップ」を、論理的に、説得性のある論述の流れで記せるよう、十分な答案作成トレーニングを積むことが必須科目攻略のポイントといえよう。
【II:選択科目−「専門知識及び応用能力」について】
この科目は、「II−1」(「専門知識」に関する、答案用紙1枚解答の問題)と「II−2」(「応用能力」に関する、答案用紙2枚解答の問題)の2種類の問題が出題される。
II−1については、改正以前の試験と同様、専門知識に関する問題が出題されているので、特に平成25年度以降の出題内容は十分学習し、出題傾向と問題の要求ポイントを掴んでおく。
II−2の出題は、20部門の各科目とも試験改正以降、ほぼ同じ出題形式で出題されている。すなわち、あるプロジェクトを進めるにあたっての調査・検討事項や業務遂行手順とその留意点、関係者との調整方策などである。II−2の対策としては、出題予想されるケーススタディをいくつか想定し、2021年度試験の形式にそってまとめておくのが基本であろう。
【III:選択科目−「問題解決能力及び課題遂行能力」について】
この科目についても、20部門の各科目とも試験改正以降、ほぼ同じ出題形式で出題されている。したがって対策としては、過去問題の出題傾向や、最近の社会経済・技術動向から出題テーマを予想し、2021年度の出題形式に沿って、答案例を準備しておく。
選択科目IIIの出題形式は、必須科目Iの設問(1)〜(3)と同じ形式のため、必須科目対策のトレーニングが選択科目IIIの対策にもつながることを留意して、効率的な学習を心掛ける。
選択科目はIIとIIIの両方の得点を合計して合否が判定されるので、片方の答案が低い点数であっても、もう片方の答案で高評価なら、選択科目全体で合格できる可能性がある。「あきらめない=Never give up!」ということが、単なる精神論ではなく、実際に受験学習時でも試験時でも大変重要であることに留意のこと。
なお、過去の合格者から「点数配分の高いIII、II−2、II−1の順に解答した」という経験談を聞いたが、この順位は、受験対策にかける学習時間のウエイトの目安にもなるだろう。前述のように、必須科目Iの答案訓練がIIIの練習を兼ねるので、I→III→II−2→II−1の順に力を入れるよう心掛けるとよい。
【「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」について】
2019年度より、筆記試験の各科目の評価項目として、「技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)」の各項目が位置づけられた。
筆記試験の各科目の答案を作成する際には、それぞれの科目に該当するコンピテンシーの内容が評価されることに十分留意し、各コンピテンシーの意味するところを正しく理解しておく。
【口頭試験について】
筆記試験と同様、総合技術監理部門を除く20部門は、口頭試験も改正され、試問内容も大きく変わった。対策としては、令和元年度以降の口頭試験内容をよく把握し、試問されている内容に対し準備しておくことが重要である(弊社で発行している令和元年度・令和2年度の「技術士第二次試験実務経験証明書・口頭試問ペア実例集」は、ぜひ参考にされたい)。特に、「技術士としての実務能力」における「コミュニケーション・リーダーシップ」、「評価、マネジメント」については、受験申込書の「実務経験証明書」(業務経歴)の内容に基づき、十分準備しておく。また、筆記試験での答案内容も試問の対象にされるので、筆記試験後は必ず復元答案を作成しておき、内容をチェックしておく。復元答案は、仮に筆記試験が不合格であっても、翌年度の筆記試験再チャレンジに役立つ。
試験の傾向が明らかになったといっても、技術士試験のレベルが下がるわけではありません。技術士は、「科学技術に関する高等の専門的応用能力」を有した者に与えられる資格です。
試験の内容とその要求しているものをよく理解し、その出題範囲・出題内容を把握することが大切です。そして、今後出題されるであろう問題内容に対し、自分が合格ラインをクリアするにはどのような勉強が必要かをよく認識して、ブレのない学習を継続して行い、自身の実力を着実にアップしていくのが、対策の基本です。
また、単に受験勉強という狭い枠だけにとらわれず、普段の業務を行っているときや、毎日のニュースを聞いたりしているときに「自分が技術士であるならどう対応するだろう?」と、一段高い視点から多面的に物事を見ようとすることも、「応用能力」や「問題解決能力・課題遂行能力」を身につけるために、そして「技術士に求められるコンピテンシー」を理解するうえで大事です。
本誌を参考に、技術士試験攻略のためのポイントやツールを見つけて、2022年度の技術士試験合格を目指してください。
平成30〜令和2年度 技術士第二次試験部門別結果
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平成30年度 |
令和元年度 |
令和2年度 |
受験者数 |
合格者数 |
合格率 |
受験者数 |
合格者数 |
合格率 |
受験者数 |
合格者数 |
合格率 |
機械 | 1,058 | 224 | 21.2% | 980 | 190 | 19.4% | 766 | 142 | 18.5% |
船舶・海洋 | 8 | 3 | 37.5% | 10 | 3 | 30.0% | 6 | 3 | 50.0% |
航空・宇宙 | 59 | 11 | 18.6% | 57 | 8 | 14.0% | 39 | 7 | 17.9% |
電気電子 | 1,448 | 187 | 12.9% | 1,229 | 150 | 12.2% | 952 | 124 | 13.0% |
化学 | 137 | 25 | 18.2% | 135 | 29 | 21.5% | 119 | 29 | 24.4% |
繊維 | 46 | 12 | 26.1% | 39 | 8 | 20.5% | 40 | 9 | 22.5% |
金属 | 114 | 53 | 46.5% | 76 | 25 | 32.9% | 53 | 19 | 35.8% |
資源工学 | 17 | 6 | 35.3% | 21 | 5 | 23.8% | 14 | 3 | 21.4% |
建設 | 14,175 | 886 | 6.3% | 13,546 | 1,278 | 9.4% | 11,763 | 1216 | 10.3% |
上下水道 | 1,552 | 182 | 11.7% | 1,446 | 173 | 12.0% | 1,237 | 181 | 14.6% |
衛生工学 | 649 | 70 | 10.8% | 558 | 45 | 8.1% | 420 | 32 | 7.6% |
農業 | 952 | 131 | 13.8% | 796 | 86 | 10.8% | 592 | 63 | 10.6% |
森林 | 314 | 66 | 21.0% | 266 | 57 | 21.4% | 236 | 61 | 25.8% |
水産 | 147 | 31 | 21.1% | 126 | 19 | 15.1% | 97 | 14 | 14.4% |
経営工学 | 278 | 57 | 20.5% | 258 | 36 | 14.0% | 186 | 22 | 11.8% |
情報工学 | 431 | 28 | 6.5% | 408 | 30 | 7.4% | 304 | 23 | 7.6% |
応用理学 | 589 | 70 | 11.9% | 576 | 82 | 14.2% | 499 | 83 | 16.6% |
生物工学 | 39 | 16 | 41.0% | 38 | 10 | 26.3% | 33 | 9 | 27.3% |
環境 | 519 | 66 | 12.7% | 493 | 78 | 15.8% | 383 | 52 | 13.6% |
原子力・放射線 | 103 | 22 | 21.4% | 88 | 17 | 19.3% | 44 | 6 | 13.6% |
(20部門 合計) | 22,635 | 2,146 | 9.5% | 21,146 | 2,329 | 11.0% | 17,783 | 2,098 | 11.8% |
総合技術監理 | 3,279 | 209 | 6.4% | 3,180 | 490 | 15.4% | 2,582 | 325 | 12.6% |
全21部門 合計 | 25,914 | 2,355 | 9.1% | 24,326 | 2,819 | 11.6% | 20,365 | 2,423 | 11.9% |
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