1−1.エンジニアリングの質保証と国際的同等性
国際エンジニアリング連合(International Engineering Alliance, IEA)iは、エンジニアリングiiの教育と実践における質保証と国際的同等性の確保、流動性の向上を目的として設立された非営利の国際組織である。IEAは、延べ29ヶ国41地域を活動範囲とするエンジニアリング教育認定団体・専門職管理団体が加盟する、教育認定の相互承認に関する3協定、及び専門資格認定の相互承認に関する4枠組みから構成されているiii。
ここで、教育認定の相互承認に関する3協定とは、エンジニア、エンジニアリング・テクノロジスト、エンジニアリング・テクニシャンという相補的な職能・活動の範囲と権限を付与されたエンジニアリング専門職の養成を担う教育プログラムの質を保証するための協定(ワシントン・アコード、シドニー・アコード、ダブリン・アコード)である。また、専門資格認定の相互承認に関する4枠組みとは、エンジニア、エンジニアリング・テクノロジスト、エンジニアリング・テクニシャンが国境を越えて自由に活動できるようにすることを目指す枠組み(国際エンジニア・アグリメント、国際エンジニアリング・テクノロジスト・アグリメント、国際エンジニアリング・テクニシャン・アグリメント、及びAPECエンジニア・アグリメント)である。IEAでは、エンジニアリングに携わる専門職を3つの職種に分類しているのが特徴である。我が国においては、日本技術者教育認定機構(JABEE)がワシントン・アコ―ドの加盟団体として、日本技術士会が国際エンジニア・アグリメントとAPECエンジニア・アグリメントの加盟団体として、IEAに参加している。
このエンジニアリング教育の認定基準、エンジニアリング専門職に期待されるコンピテンシー(知識・スキル・態度・価値観が有機的に結合することを通して、行為として表出する能力)、及び相互の関係性を整理したものである。
GA & PC は、改訂が重ねられ、2021年6月21日には第4版が承認・発効された。
図1 技術士資格の国際的通用性の観点から
【第4版改訂のポイント】
- エンジニア専門家と専門職の将来ニーズへの対応 ―チームワーク、コミュニケーション、倫理観、持続可能性など、必要な知識・能力を強化する。
- 新しい技術 ―デジタル学習、参加型の職業体験、生涯学習を取り入れる。
- 最先端および将来的な専門分野と実践領域 ―専門分野固有のアプローチを維持しながら、データサイエンス、その他の科学、生涯学習に関するスキルを 強化する。
- 国連の持続可能な開発目標(SDGs)の導入 ―多方面(技術的、環境的、社会的、文化的、経済的、財政的、そしてグローバルな責任)に影響を及ぼしうる解決策を開発する際に国連の持続可能な開発目標を導入する。
- 多様性と包摂性チームで取り組む仕事の進め方、コミュニケーション、コンプライアンス、環境、法律などのシステムに多様性と包摂に関する考慮事項を盛り込む。
- 知的俊敏性、創造性、革新性 ―解決策の設計・開発において、批判的思考と革新的プロセスを重視する。
- International Engineering Alliance (https://www.ieagreements.org/)
- 本文書では、「エンジニアリングは、人々のニーズを満たし、経済を発展させ、社会にサービスを提供するために不可欠な活動であり、数学と自然科学、及びエンジニアリングの知識、技術、手法の体系の合目的な活用である。」と定義している。
- International Engineering Alliance Governance Structure & Procedures.
(https://www.ieagreements.org/assets/Uploads/Documents/Policy/IEA-Governance-Structures-and-Procedures-2021.1-June-2021.pdf)
1−2.コンピテンシー改訂の流れ
これらのIEA GA・PCの改訂に対応するように,技術士試験のコンピテンシーも変化してきた。しかし,文部科学省のコンピテンシーの流れは,時系列的に見ると非常に奇妙なものになっている。
新コンピテンシーは2年前に発表されながら公示は更に2年後の令和8年度の受験のしおりからという珍妙なプロセスである。
●新・技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)
専門的学識
- 技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な、技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
- 技術士の業務に必要な、我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用すること。
問題解決
- 業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、必要に応じてデーク・情報技術を活用して定義し、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
- 複合的な問題に関して、多角的な視点を考慮し、ステークホルダーの意見を取り入れながら相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
マネジメント
- 業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
評価
- 業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。
コミュニケーション
- 業務履行上、情報技術を活用し、口頭や文書等の方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者との間で、明確かつ包摂的な意思疎通を図り、協働すること。
- 海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
リーダーシップ
- 業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
- 海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
技術者倫理
- 業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、経済及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代にわたる社会の持続可能な成果の達成を目指し、技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚し、倫理的に行動すること。
- 業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守し、文化的価値を尊重すること。
- 業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと。
継続研さん
- CPD活動を行い、コンピテンシーを維持・向上させ,新しい技術とどもに絶えず変化し続ける仕事の性質に適応する能力を高めること。
●近々改訂されるであろう次のPCのプロフィール(2021年IEA改訂第4版)
公表されている文部科学省の「昨今の技術士資格に係る国内外の情勢」という資料では
☆GA・PCのグローバル基準の見直し(IEA、WFEO)
IEAのGA・PCフレームワークが最後に検討されたのは2013年であるため、UNESCOとWFEOとIEAは、フレームワークをレビューして、それらが現代の価値観と雇用主のニーズを反映していることを確認し、将来のエンジニアが国連の持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)を推進することを組み込むようにするためのワーキンググループを設立することが合意され、2020年11月にGAPCSワーキンググループが設立された。
国際エンジニアリング連合(IEA:International Engineering Alliance)は、世界工学団体連盟(WFEO:World Federation of Engineering Organizations)との覚書を基に、両者のWGで、GA・PCのグローバル基準の見直しを行い、2021年開催のIEA総会と2022年開催のWFEOの総会で改訂の最終決定が行われた。
IEAのメンバー/署名者が各国・エコノミー内でGA・PCの変更に適応するために、3年間の移行期間が設けられている。
<主な変更点>
- エンジニアや専門職の将来のニーズに対応するため、チームワーク、コミュニケーション、倫理、持続可能性に必要な特質を強化。
- 新しいテクノロジーとして、デジタル学習、アクティブな実務経験、生涯学習を導入。
- 分野に依存しないアプローチを維持しながら、データサイエンス、その他の科学、生涯学習のスキルを向上(新興のエンジニア分野・専門分野)。
- 技術・環境・社会・文化・経済・財政・世界的責任など、様々な影響を考慮したソリューション開発を行うため、SDGsを組込み。
- チームでの作業方法、コミュニケーション、コンプライアンス、環境、法務などのシステムにダイバーシティとインクルージョンを包含。
- 批判的思考と設計における革新的なプロセスとソリューション開発を強調。
となっている。上記の第4版改定のポイントとつき合わせてみると、改訂第4版の13項目も公表されていると考えていいだろう。この変更点を2026年のコンピテンシーに繰り込むのなら、新コンピテンシーは幻の告知資料となるのではないだろうか。
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