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2024.10 増刊号【特集記事】

技術士第二次試験2025始動!

第1章 技術士試験で問われるコンピテンシーの変遷

 

技術の高度化、統合化や経済社会のグローバル化等に伴い、技術者に求められる資質能力はますます高度化、多様化し、国際的な同等性を備えることも重要になっでいる。

技術士は「科学技術に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務を行う者」(技術士法)と定義されているが、これらの業務を行うために、技術士に求められる資質能力が明確に定められていない。

技術士制度の活用促進を図るためには、全ての技術士に求められる資質能力に加え、技術部門ごとの技術士に求められる資質能力(技術部門別コンピテンシー)を定めることも必要である。その際に、技術士資格が国際的通用性を確保するという観点から、IEAの「専門職として身に付けるべき知識・能力」(PC)を踏まえることが重要である。

技術士分科会では、このような認識に基づき、「専門的学識」「問題解決」「マネジメント」「評価」「コミュニケーション」「リーダーシップ」「技術者倫理」の項目を定め、各々の項目において、技術士であれば最低限備えるべき資質能力を定めた。

●技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)(旧)

 専門的学識 
  • 技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な、技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
  • 技術士の業務に必要な、我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用すること。
 問題解決 
  • 業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
  • 複合的な問題に関して、相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
 マネジメント 
  • 業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
 評価 
  • 業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。
 コミュニケーション 
  • 業務履行上、口頭や文書等の方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者との間で、明確かつ効果的な意思疎通を行うこと。
  • 海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
 リーダーシップ 
  • 業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
  • 海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
 技術者倫理 
  • 業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、文化及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代に渡る社会の持続性の確保に努め、技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚し、倫理的に行動すること。
  • 業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守すること。
  • 業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと。
 継続研さん 
  • 業務遂行上必要な知見を深め、技術を修得し資質向上を図るように、十分な継続研さん(CPD)を行うこと。

●新・技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)

 専門的学識 
  • 技術士が専門とする技術分野(技術部門)の業務に必要な、技術部門全般にわたる専門知識及び選択科目に関する専門知識を理解し応用すること。
  • 技術士の業務に必要な、我が国固有の法令等の制度及び社会・自然条件等に関する専門知識を理解し応用すること。
 問題解決 
  • 業務遂行上直面する複合的な問題に対して、これらの内容を明確にし、必要に応じてデーク・情報技術を活用して定義し、調査し、これらの背景に潜在する問題発生要因や制約要因を抽出し分析すること。
  • 複合的な問題に関して、多角的な視点を考慮し、ステークホルダーの意見を取り入れながら相反する要求事項(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)、それらによって及ぼされる影響の重要度を考慮した上で、複数の選択肢を提起し、これらを踏まえた解決策を合理的に提案し、又は改善すること。
 マネジメント 
  • 業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、品質、コスト、納期及び生産性とリスク対応に関する要求事項、又は成果物(製品、システム、施設、プロジェクト、サービス等)に係る要求事項の特性(必要性、機能性、技術的実現性、安全性、経済性等)を満たすことを目的として、人員・設備・金銭・情報等の資源を配分すること。
 評価 
  • 業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果やその波及効果を評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。
 コミュニケーション 
  • 業務履行上、情報技術を活用し、口頭や文書等の方法を通じて、雇用者、上司や同僚、クライアントやユーザー等多様な関係者との間で、明確かつ包摂的な意思疎通を図り、協働すること。
  • 海外における業務に携わる際は、一定の語学力による業務上必要な意思疎通に加え、現地の社会的文化的多様性を理解し関係者との間で可能な限り協調すること。
 リーダーシップ 
  • 業務遂行にあたり、明確なデザインと現場感覚を持ち、多様な関係者の利害等を調整し取りまとめることに努めること。
  • 海外における業務に携わる際は、多様な価値観や能力を有する現地関係者とともに、プロジェクト等の事業や業務の遂行に努めること。
 技術者倫理 
  • 業務遂行にあたり、公衆の安全、健康及び福利を最優先に考慮した上で、社会、経済及び環境に対する影響を予見し、地球環境の保全等、次世代にわたる社会の持続可能な成果の達成を目指し、技術士としての使命、社会的地位及び職責を自覚し、倫理的に行動すること。
  • 業務履行上、関係法令等の制度が求めている事項を遵守し、文化的価値を尊重すること。
  • 業務履行上行う決定に際して、自らの業務及び責任の範囲を明確にし、これらの責任を負うこと。
 継続研さん 
  • CPD活動を行い、コンピテンシーを維持・向上させ,新しい技術とどもに絶えず変化し続ける仕事の性質に適応する能力を高めること。

今後、文部科学省においては、この内容を民間企業、公的機関等の各方面へ提供し、技術士制度の活用を働きかけることが必要である。

令和5年1月25日に「コンピテンシー」が改訂。2025年度試験は、改訂したコンビテンシーに基づくことが予想される。(上記)

技術士に求められる資質能力(コンピテンシー)については、国際エンジニアリング連合(IEA)が定める「修了生としての知識・能力(GA:Graduate Attributes)と専門職としてのコンピテンシー(PC:Professional Competencies)」に準拠することが求められている。2021年6月にIEAにより「GA&PCの改訂(第4版)」が行われ、国際連合による持続可能な開発目標(SDGs)や多様性、包摂性等により複雑性を増す世界の動向への対応やデータ・情報技術、新興技術の活用やイノベーションへの対応等が新たに盛り込まれた。(下記の表

技術士制度においては、IEAのGA&PCも踏まえ技術士試験やCPD(継続研さん)制度の見直し等を通じ、我が国の技術士が国際的にも通用し活躍できる資格となるよう不断の制度改革を進めている。(近未来、下記のPCのプロフィールとなる予定)

●コンピテンシーで誤解されやすい項目(講師や著者も、受講者や読者も)

  • 「評価」(新しいリスク)について
    必須科目Iや選択科目IIIの出題での「すべての解決策を実行しても新たに生じうるリスク」で、たとえば自然災害や、コロナウイルスのような感染症の流行などを挙げている例が少なからずあるが、これらはいつでも起こりうること(状況的厄災)であり、「新しい」リスクとは言えない。
    「新たに」の意味は、「解決策を実行」したことで生じうるリスク、と考えられる。
    「試験科目別確認項目」(下記)にあるように、必須科目や選択科目IIIでの評価項目の1つである「評価」では「新たなリスク」が問われている。
    「評価」は、「業務遂行上の各段階における結果、最終的に得られる成果をデジタルで評価し、次段階や別の業務の改善に資すること。」である。
    試験問題に即していえば、各段階のステップを踏んで記すよう求められている場合、総合的に①抽出した課題に対する解決策を実施、②解決策実施後、その成果や波及効果によって生じうる「新たなリスク」の想定、③リスクへの対策、という形になる場合がある。そのため、「新たなリスク」は、課題に対する解決策を実行したことに関連付けて記す必要がある。
    (総合的な成果(アウトカムズ)を定量化して評価することが求められる。)
    令和5年度の応用理学や生物工学のI、IIIの問題の一部では「提示した解決策に関連して新たに浮かび上がってくる将来的な懸念事項」「解決策に関連して新たに生じうるリスク」のような問いかけにし、「解決策との関連」を明記している。これは、「解決策に関連していないリスク」を挙げる受験者が多いため、誤解を避けるための方策ではないかと考えられる。

●近々改訂されるであろう次のPCのプロフィール(2021年IEA改訂第4版)

表 試験科目別確認項目

●理解しないと正しい解答が書けない

  • マネジメント(試験科目別確認項目:II-2 業務遂行手順、口頭試験)
    「業務の計画・実行・検証・是正(変更)等の過程において、(中略)要求事項の特性(中略)を満たすことを目的として、人員・設備、金銭、情報等の資源を配分すること。」は、II-2の設問「業務を進める手順を列挙して、その項目ごとに留意すべき点、工夫を要する点を述べよ。」に当てはめると、以下のようになる。
    「業務の計画・実行・・・」、すなわちPDCAの順で「業務遂行手順」を説明し、「留意すべき点」を記述するには、実際に業務を実行し、経験をつんでいることが重要。
    全質問に「リスクコミュニケーション」(リスクに関してステークホルダーとの相互理解を深めるためのコミュニケーション:知る権利に対する説明責任)が重要である。このことは、特にII-2でのリーダーシップ(関係者調整)での方策や、口頭試験での「コミュニケーション」能力のアピールに有効である。
  • リーダーシップ:II-2 関係者調整、口頭試験)
    「率先して業務を進める」というイメージがあるが、「多様な関係者の利害等を調整し取りまとめる」ことが要求されている。そのためには、「マネジメント」や「コミュニケーション」能力とも密接な関係がある。
  • 技術者倫理(試験科目別確認項目:I、口頭試験)
    「修習技術者のための修習ガイドブック」(日本技術士会発行)では、「「倫理」とは、自律としての規範であり、モラルや常識(社会秩序維持)のように、個人が勝手に解釈をすることは基本的に許されない。」とある。
    倫理に関しても、組織的倫理だけでなく、技術者としての倫理観を醸成することは、社会への責任(人材育成やリスクコミュニケーションを含むポジティブ・エシックス)を果たす基本事項である。これらの変化に対応して世界に通用するPEになるのだ。


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