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2024.01【特集記事】

技術士試験に合格するために
試験の歴史と背景を知ろう!!

「技術士の眼」〜話題のテーマを技術士の視点から解説〜

 
技術士第二次試験の必須科目で出題されるテーマについて、技術士として「どう考え、どう取り組むべきか」をお伝えします。試験対策として役立つ情報も提供いたします。


●SDGsとは

SDGs(Sustainable Development Goals)の意味は、「持続可能な開発目標」です。2015年9月の国連サミットで、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」として採択され、17の目標が挙げられています。

17の目標

  1. 貧困をなくそう
  2. 飢餓をゼロに
  3. すべての人に健康と福祉を
  4. 質の高い教育をみんなに
  5. ジェンダー平等を実現しよう
  6. 安全な水とトイレを世界中に
  7. エネルギーをみんなに。そしてクリーンに
  8. 働きがいも経済成長も
  9. 産業と技術革新の基盤を作ろう
  10. 人や国の不平等をなくそう
  11. 住み続けられるまちづくりを
  12. つくる責任、つかう責任
  13. 気候変動に具体的な対策を
  14. 海の豊かさを守ろう
  15. 陸の豊かさも守ろう
  16. 平和と公正をすべての人に
  17. パートナーシップで目標を達成しよう

また17の目標以外に、「誰一人取り残さない」という原則が採用されています。
さて、ここでクイズです。SDGsの意味を説明してください。
きっと多くの方が、17個の目標を実現すること、あるいは誰一人取り残さないことを思い浮かべたことと思います。しかし、SDGsの意味は「持続可能な開発目標」でした、特に重要なのが持続可能というところです。
技術士倫理綱領の2番目に「持続可能な社会の実現」があります。これは、1992年のリオデジャネイロ宣言で採択された「持続可能な開発(Sustainable Development)」に由来し、SDGsのルーツと同じです。
ここでいう「持続可能な社会」とは、「地球環境や自然環境が適切に保全され、将来の世代が必要とするものを損なうことなく、現在の世代の要求を満たすような開発が行われている社会。」です。「持続可能な社会の実現」に立ちはだかる今世紀最大の壁は、気候変動問題にほかなりません。そのため、「人為的な温室効果ガスの排出を実質ゼロとする」ことを目指してます。しかし、地球上に住む人々の全てが、そのために直接活動できているかというと、食べるために畑を燃やしたり、というように、そうなっていないのが実情です。なぜできないのでしょうか?根本原因を考えると、飢餓・貧困・ジェンダーやバックグラウンドによる不平等が見えてきました。このような根本原因から解決する活動が、SDGsの活動です。

●技術士が考えるSDGsの意味

社会に対して科学技術を適用することは、SDGsの目標の一つに貢献できることも多いかと思います。しかし、それが「持続可能な社会」の実現に役立つかと言えば、そうとも言い切れません。
例えば「新入社員の採用」業務において、応募者のスキルや適性をAIにより判断し採否を決めることは、採用業務における効率化だけでなく、労働者の流動性を確保する上でも効果があると考えられるので、「8働きがいも経済成長も」に貢献していると言えるかもしれません。しかし、現在ある社会の不平等を、そのままAIが学習しており、社会の不平等の固定化を劇的に推進してしまう可能性に気づくでしょう。つまり、AIを採用などに使用することは、「5ジェンダー平等を実現しよう」の目的達成を大きく阻害することが予見できるということです。

●技術士第二次試験での出題内容と対策

総合技術監理を除く部門の二次試験必須科目の出題では、社会問題に対して解決策を求める出題がされます。その解決策に対して、「社会の持続可能性の観点から必要となる要件・留意点を述べよ。」という出題がされるようになっています。
解決策は、今ある社会問題を解決するための提案ですから、SDGsの17の目標のどれかには対応するものと思います。17の目標に対応できることを述べたところで安心しないでください。次の世代(たとえば10年後)の頃に、あなたが提案した解決策により社会がどのように変化しているか予想してみてください。先ほどAIで述べたような提案した解決策の負の影響に気づきませんか?そのような負の影響を最小化する方法こそが、「必要となる要件・留意点」になります。受験される皆様は、そこまで考えて、書き切ってください。

野村和哉 技術士(情報工学部門/経営工学部門/電気電子部門/総合技術監理部門)

●人手不足とは

令和4年に総務省が公表した「労働力調査」を基に国土交通省が算出した建設業就業者数の推移は、ピーク時の1997年の685万人から約30%減の479万人まで減少している。特に、建設技能者の減少が著しく、2010年からの10年間で約29万人が減少している。理由は団塊世代の高齢化と考えられ、世代別では60歳以上が全体の25.7%、50歳以上60歳未満が全体の24.0%を占めている。さらに、10年後にはその大半が引退すると見込んでいる。一方で、これからの建設業を支える29歳以下の世代の割合は全体の11.7%に留まり、若年層の入職者の確保・育成と次世代への技術継承が喫緊の課題となっている。これらの背景から、技術士に求められる役割は、人手不足の潜在的な問題点を抽出し、公益の確保を最優先に災害発生時の地域の守り手である地元建設業の持続可能性に資する解決策を遂行する。さらに、これを評価して全体最適化を図る活動と考える。

●技術士が考える人手不足の意味

人手不足の主な原因は、少子高齢化による生産年齢人口の減少である。その一方で、社会ニーズの変化による人材需給のアンバランスが影響していると考える。理由は、建設企業の雇用形態が、労働者(求職者)の多様化する働き方とギャップが生じているからである。以下に建設業の特性を示す。
  1. 一品受注生産:現場条件および自然条件によってそれぞれ仕様が異なる
  2. 現地屋外生産:日々変化する気象および海象条件に対処する必要がある
  3. 労働集約型生産:一つの仕事に携わる人数が多く物的労働生産性を重視
  4. 旧態依然とした価値観:工期厳守のための長時間および休日労働を美徳とする
  5. デジタル化および自動化の遅れ:付加価値を生まない資源の投入が多い
上記の理由から、製造業等で進められてきたライン生産方式やセル生産方式、自働化・ロボット化の生産性向上策の導入が困難とされていた。そのため、労働者はワークライフバランスを確立できず労働対価も低いため、若年層の入職および定着率が低いと考える。
上記の解決策として、「付加価値労働生産性」への移行が望ましいと考える。これは、労働者1人当たり(または労働者1人が1時間当り)が、どれだけの付加価値を生み出しかの数値で、付加価値額を労働量で除した数値である。また、付加価値額は、自社が生み出したモノやサービスの売上げから、外部から購入した費用(原材料費、購入部品費、外注加工費、運送費など)を差し引いた額である。つまり、出来高を得るために労働力を増やすのではなく、投入する労働力を減らしても、同等もしくはそれ以上の価値を産出する労働生産性をいい、業務の効率化によって労働生産性を向上する。この業務の効率化を達成するために、国土交通省はi-Constructionを推進している。この取組の目的は以下のとおりである。
  1. 情報通信工学(ICT)、モノのインターネット(IoT)、人工知能(AI)、ロボティクスなどの最新技術の活用、コンカレントエンジニアリング、フロントローディングの実践により、建設生産プロセスの全体最適化を図る。
  2. 一品受注生産から、工場製作のプレハブ化によって原材料の調達、各部材の製作、運搬、部材の組立をサプライチェーンマネジメント化して、施工性と品質管理を合理化する建設生産システムを確立する。
上記の対策の実現により、建設生産プロセスが最適化して建設企業の経営環境を改善できる。この波及効果として、建設に携わる人の賃金水準の向上と週休二日制度の定着により、建設業の魅力を向上させて若年層の離職を抑制できると考える。

●技術士第二次試験での出題内容と対策
  • 人手不足の問題解決に向けた課題を多面的な観点から述べる。例えば、生産性の向上、賃金水準の向上、十分な休暇の取得、安全性の向上、多様な人材の活用(女性・高齢者・外国人など)から課題を導き出す。課題の抽出に当たっては、国土交通省、厚生労働省、内閣府などの調査結果を参考にする。
  • 最重要課題はその理由を説明できるように準備する。例えば、生産性の向上を観点とした課題は、「従来の物的労働生産性から付加価値労働生産性へ移行して業務を改善する必要がある。」と理由を明確にする。
  • 人手不足の解決に資する方策は、受験する部門の主要政策を理解した上で専門技術用語を交えて創意工夫の要点を説明する。さらに、業務の効率化で得られる効果(労働時間やコストの削減など)を定量的に示して評価する。
  • すべての解決策を実行しても発生する残留リスクや懸念事項(次世代への技術の継承など)を明示し、これを低減する対策を、専門技術を踏まえて具体的に提示する。
  • 技術者倫理は、科学技術が持ち合わせる良い影響と悪い影響を論理的に考察し、公益の確保を最優先に社会の持続性を追求するため、付加価値を創出して全体最適化を図る業務の要点とその遂行上の留意点を述べる。
廣瀬正和 技術士(建設部門)



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