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2021.04【特集】

技術士第一次試験はこう変わる!


課題と制度の見直し

 

1 技術士補制度の現状と課題

技術士法によれば、技術士補は以下のことが規定されている。

  1. 技術士第一次試験に合格し、又は指定された教育課程を修了し、同一技術門の補助する技術士を定めて、法定の登録を受けていること。
  2. 技術士補の名称を用いて、技術士の業務を補助する業務を行うこと。
  3. 技術士補は、技術士を補助する場合を除くほか、技術士補の名称を表示して業務を行ってはならないこと。
1984年に技術士補制度が発足して以来、2019年3月末現在技術士補の登録者数は、約36,000人となっている。また、技術士補とは、技術士となるのに必要な技能を修習するため、法第32条第2項の登録を受け、技術士補の名称を用いて、技術士の行う業務について技術士を補助する者となっているが、その法目的と現状が乖離している可能性もある。
一方、技術士になるためには、技術士第二次試験に合格することが必要であり、第二次試験の受験資格(総合技術監理部門を除く)として、以下の3つのルートがある。
  1. 技術士補に登録して以降、技術士補として4年を超える期間技術士を補助している。(2018年度実績で受験者全体の1.2%で減少傾向)
  2. 職務上の監督者の下で、科学技術に関する業務について、4年を超える期間従事している。(同3.8%で増加傾向)
  3. 学技術に関する業務について、7年を超える期間従事している。(同95.0%)
上記の数字が示すように、大多数の者が7年以上のルートを選択しているのに対し、技術士補のルートの選択者は極めて少なくこの傾向は年々強まっており、技術士補制度の意義は薄れ前期報告にて廃止も検討すべきとの提案がなされた。

2 アンケート調査の実施と分析

今後の方向性を検討するに当たっては、(公社)日本技術士会は、会員の声を聞くことが不可欠と考えアンケート調査を実施した。
技術士補制度の継続あるいは見直しについては、「見直すべきである」とする意見が80%と高率となり、「継続すべきである」の20%を大きく上回った。見直しの方向性については、「第一次試験合格者(JABEE認定課程修了者を含む)は『(仮称)修習技術士』として技術士を目指す」との意見が最も多かった。一方で、技術士補は技術士となるのに必要な技能を修習するためだけでなく、継続的に技術士補の名称を用いて活動することが可能となるようにすべきという意見もあった。その他、「部門限定を廃止し、どの部門の技術士でも登録可とするなど」指導技術士の制限を緩やかにするとする制度改正を望む意見と、「廃止する」とする意見が各々半数程度出された。

3 今後の課題

(1)名称変更について
技術士補制度に関して、技術士を目指すという本来の法目的とは異なった理解がなされているという状況があることも判明した。これは技術士補の資格により、一定の業務を行っているような印象を与えることに起因していると考えられる。技術士補が実施できる業務を明確にし、インセンティブを付与すべきとの意見や技術士補制度を継続すべきとの意見も一定程度あったことから、技術士補制度そのものを廃止するのではなく、「(仮称)修習技術士」と呼称変更することで技術士になるためのステップであることを明確にすることが考えられる。

(2)登録期間の制限
技術士補から技術士へ昇格した者のデータを分析すると、多くが12年目までに合格し15年を過ぎるとその数は極端に減少している。今回のアンケートでも、多くの者が技術士補として10年程度の経験を経て技術士となっている状況が窺える。このことから技術士補の名称を維持した場合でも、その活動できる年数を15年程度に制限し、第二次試験合格を促進するという方策も考えられる。

(3)指導技術士制度の見直し
技術士補制度を活用して登録後4年で技術士となる受験資格を得るルートの利用者が少ない理由の一つとして、指導する同一部門の技術士が確保しにくい現実があると考えられる。一方でもう一つのルートである職務上の監督者には、同様の規定が適用されない。技術士補制度の存続・見直しの如何に関わらず、指導技術士の技術部門を特に限定しない方向に変更して行くことが必要である。

(4)初期の能力開発(IPD)の実施について
技術士が行う資質・能力の向上がCPDであり、修習技術者が行う資質・能力の向上がIPDである。前者は自立して業務を遂行する能力を向上させるための活動であり、後者はその資質・能力の獲得を目指して行う活動である。技術士を目指すためにはIPDの実施が不可欠であり、IPD支援の拡大、充実が必要である。
本会では、「修習技術者のための修習ガイドブック」(修習技術者支援委員会編)を作成し修習活動内容を明らかにしている。今後はIPDの必要性を周知する活動を行うとともに、その実践の拡大を目指していく。

(5)在学中の第一次試験受験の奨励
近年、在学中に技術士第一次試験を受験する学生が増加傾向にあり、2018年度では、在学中の受験者が2,885人と全体の約15.4%を占め、その合格者も1,282人で全体の約20.0%となっている。在学中に第一次試験に合格し大学院の課程修了で実務経験を2年間短縮できる制度を活用すれば、極めて短期間の実務経験で第二次試験の受験資格を得ることができる。
技術士補制度の検討からは離れるが、本制度はそもそも「若手技術士の増加」を法目的に導入されたものであることから、在学中の第一次試験受験を奨励することも重要である。本会では大学等に出向いて技術士制度の説明を行う活動も実施しているが、在学中の受験の促進策についても大学技術士会等との連携を含め検討していく必要がある。大学など在学中の学生の受験を促進することにより、若手技術士の増加に繋がることが期待される。
今後の第一次試験科目的役割分担は、

基礎科目 大学のエンジニアリング課程修了程度

●科学技術全般、具体的には数学、自然科学、工学にわたる以下の基礎知識に関するもの

  1. 設計・計画に関するもの(設計理論、システム設計、品質管理等)
  2. 情報・論理に関するもの(アルゴリズム、情報ネットワーク等)
  3. 解析に関するもの(力学、電磁気学等)
  4. 材料・化学・バイオに関するもの(材料特性、バイオテクノロジー等)
  5. 環境・エネルギー・技術に関するもの(環境、エネルギー、技術史等)
●エンジニアリングデザイン能力やプロジェクトマネジメント能力に関する基本的知識に関するもの

適性科目

技術士としての適性、具体的には、技術者倫理、チームの一員として役割を果たす能力、社会との効果的なコミュニケーションを行う能力、生涯を通じて継続学習に取り組む心構えと能力

専門科目 大学のエンジニアリング課程修了程度

  1. 機械・システム系
    この系に含まれる技術部門は、機械、船舶・海洋、航空・宇宙、繊維、金属、経営工学、原子力・放射線の計7部門です。
  2. 電気電子・情報系
    この系に含まれる技術部門は、電気電子、経営工学、情報工学、応用理学、原子力・放射線の計5部門です。
  3. マテリアル系
    この系に含まれる技術部門は、化学、繊維、金属、資源工学、衛生工学、環境、原子力・放射線の計7部門です。
  4. 建設系
    この系に含まれる技術部門は、建設、上下水道、衛生工学、農業、森林、水産、環境の計7部門です。
  5. 環境・生物系
    この系に含まれる技術部門は、資源工学、農業、森林、水産、応用理学、生物工学、環境、原子力・放射線の計8部門です。
つまり、この5つの系のどれかで受験するわけですから、学習範囲が拡がり、負担が大きくなるわけです。
技術士第一次試験は、一年で合格しなければならない所以です。(文部科学省技術士分科会配布資料より)


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